2010年10月24日日曜日

2010年度中小企業診断士二次試験の問題全文をアップしました。

1.中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅰ(組織・人事)
 A社は、主に砂糖・油・小麦粉などの食品原材料を取り扱う一次問屋として事業を拡大してきた。現在、地方都市にある本社を中心に、国内11カ所の事業所ネットワークを通して、常温で保存できる食品原材料の供給を行っている。A社の資本金は8,000万円、近年の年商はおよそ170億円で、経常利益は年によって多少ぶれがあるものの2〜3億円と、ここしばらく増収増益傾向で推移している。A社の売上高に占める割合が最も大きな品目は砂糖である。砂糖業界に限ると、業界の企業規模は相対的に小さく、取引している二次問屋が1,000軒を超えるA社は国内でトップクラスに位置づけられる。社員数は125人で、定年を目前にしたあるいは定年延長じた社員の割合が高く、40〜50歳代の社員が少ないために、高齢の社員が退職した後、中心となるのは30歳代である。
 代表取締役のA社社長は、大学卒業後8年の銀行勤務を経てA社に入社した。首都圏の支店に配属され、東北、甲信越地域を中心に営業を担当した。40歳の時、父から引き継ぎ社長に就任した。先代は、すでに相談役に勇退している。
 伝統的に砂糖商社の商売は、生産者と売り手の取引を円滑に進めることで手数料を得る商売で、東京・大阪・名古屋などを拠点に、そこから代理店に対して商品を流通させていた。30年ほど前まで食品原材料商社は、相場が下がれば買い取って、上がれば売るというタイミングを計ることが重要で、それが一次問屋の役割であり、それさえうまく運んでいれば商売は安泰であった。しかし、現在ではそうしたビジネス・スタイルは一変している。
 従来は、二次・三次問屋のオーナー同士とのつきあいを通じて作られた人的ネットワークが重要で、地区ごとに「A社共栄会」といった親睦組織を設けて、年2回の温泉旅行を実施するなどオーナー同土のつながりを深めていた。A社のこうしたネットワークが磐石で大規模であったことが、業界で優位性を確保することができた要因の1つであった。しかし、食品原材料業界も顧客の価格志向が強くなり、ドライな感覚でビジネスをする顧客が多くなってきた。さらに、配送の頻度や便宜性など先方の細かな要求を充足することが求められるようになってきた。加えて、砂糖業界での企業間競争も激L くなっている。かつては、ナショナル・ブランドの大手食品メーカーが大手商社の領域であった。しかし、近年、大手商社が参入することのなかった中堅規模の食品メーカー市場にも大手商社が参入するようになってきた。大手商社は物流機能を充実させ、これまで培ってきた二次・三次問屋とのネットワークを強化すると同時に、末端の顧客まで直接攻めるようになってきた。A社でも首都圏の大規模市場におよそ10億円を投資して、支店と近隣の倉庫を統合した「倉庫兼物流センター兼支店」を構えた。
 A社はまた、近年、地方の有力店との連携を強化している。というのも、地方の有力店の経営が厳しさを増し、そうした取引先から救済を求められているからである。後継者問題で廃業に追い込まれたり、あるいは客のビジネスの進化についていけず機能不足に陥っているなどの問題を抱える有力店の友好的買収である。結果的に、こうした動きによって物流拠点を革新して効率性を高め、取引先だけでなく地元の末端顧客にとっても利益をもたらしている。A社が救済のために買収した二次問屋には、トップマネジャーこそA社から転籍させるが、そこで雇用されている従業員は、それまでと同じ条件で雇用することにしている。
 こうした経営環境の変化の中にあっても、A社は、長年にわたって伝統的な家族主義的経営を掲げて年功序列型の給与体系を適用してきた。食品原材料を取り扱う商売に往々にして見られることであるが、ある程度の商圏さえ持っていれば、あまりあくせくしなくともきちんと売り上げがあがってきたからである。しかし、取引先の倒産や転廃業が頻発する中で、ある程度新陳代謝を促していかないと存続すら危ういという不安があって、わずかながらではあるが成果主義的要素を取り入れた。もっとも、月額の生活給部分は年功序列を守り、ボーナスの部分に成果を反映させるといった程度のものである。
 他方、A社のもうひとつの動きは、先代がスタートさせた砂糖の自社加工の強化である。砂糖や小麦粉の仕入れルートの強みを活かして、事業領域を広げようという考えである。現社長の代になってからも、増員、さらなる設備の導入など経営資源を投入している。大手製糖メーカーが年間100万本以下では対応しないようなスティックシュガーや粉糖などの事業で、中小喫茶店チェーンなどをターゲットに10万本程度の少量でも対応するといったニッチな市場を狙った事業である。大手メーカーではリスクが高くコスト面でも合わないことから、以前は全国に中小加工場が事業展開していたが、衛生基準や品質を確保するためにユーザー側が自ら設備や管理を充実させざるを得なかった。そこに、A社がビジネスチャンスを見いだして新規事業として取り組んだのである。現在、この新規事業の売り上げは5%を占めている。
 変化が激しく厳しい経営環境の中で、A社は商社である以上、基本的にはどのような商材でも扱うことを前提にしている。しかし、主力事業として食品原材料供給を中心におくのは、食品は市場から消えることはないという考えからである。その一方で、A社では売り上げを伸ばしていくために、食品原材料以外の商材を取り扱っていくことを真剣に検討し始めているのも事実である。

第1問(配点30点)
A社が主力事業としている砂糖業界の環境変化と事業展開の変容について、以下の設問に答えよ。
(設問1)
過去に成功してきた事業展開の中で、A社のような一次問屋にとって三次・三次問屋とのネットワークの構築が強みとなった理由について100字以内で説明せよ。
(設問2)
これまでの事業展開を継続することができなくなった経営環境の変化は、どういったものであるのか。A社の取り扱う食品原材料という商品特性を踏まえて、100字以内で説明せよ。

第2間(配点30点)
転廃業を迫られている地方の二次問屋に対してA社が積極的に進めている友好的買収に関連して、以下の設問に答えよ。
(設問1)
A社は、友好的買収を積極的に推し進めているが、その目的と効果について100字以内で説明せよ。
(設問2)
A社は友好的買収を進める際に、従来の従業員を継続して雇用することにしている。そのメリットとデメリットについて100字以内で説明せよ。

第3問(配点20点)
家族主義的経営を掲げるA社でも、近年の経営環境の変化の中で、成果主義的要素をわずかながら人事制度に取り入れるようになった。より成果主義的要素を強化した人事制度にすべきかどうかについて、中小企業診断士としてA社社長からアドバイスを求められた。成果主義的要素を強化した際のA社にとってのメリットとデメリットをどのように考えるべきかについて、100字以内で述べよ。

第4問(配点20点)
食品原材料商社であるA社が事業拡大のために、食品原材料以外の商材に手を延ばすべきかどうか、中小企業診断士としてA社社長からアドバイスを求められた。どのようなアドバイスをするかについて、100字以内で述べよ。



2.中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅱ(マーケティング・流通)
 B社は、地方都市であるI県Y市とその周辺地域に8店舗を展開する食品スーパーマーケットである。資本金3,000万円、年商は65億円である。現在の従業員数はパート、アルバイトを含めて250名である。B社の創業は1914年(大正3年)、現社長の曽祖父が乾物屋を開業し、やがて野菜、鮮魚、精肉など、取扱商品の品揃えを充実させ、食品全般を商う食品スーパーへと発展した。その後、 B社の経営は同族問で代々引き継がれ、1990年までに6店舗を擁する中堅スーパーとなった。
 その間、I県全体に大きく展開する地元の大型スーパーや全国規模の大手スーパーなどとの価格競争に巻き込まれ、多店舗展開がコスト増につながるようになり、次第に利益率の低下を招き、1995年度には大幅な赤字となってしまった。また、従業員の能力や成果も十分に評価されず、職場の士気にも影響を及ぼしていた。その織烈な競争環境にさらされていたその年に、現社長が父親からB社の経営を引き継ぐことになった。
 現社長は、早速B社の経営再建に着手し、徹底した組織内部の制度改革や環境の改善、取引先の見直しなどを行った。まず、同族経営にありがちな肥大化した取締役陣に対して、身内とのあつれきを覚悟で退任を要求し、経営陣のスリム化を図った。また、パートを含めた従業員に対しては、その能力を尊重した透明性のある昇給制度を導入し、給与体系も見直した。さらに、優秀なパート従業員に対しては、正社員への登用制度を作り、社員と区別なく能力を評価した。
 顧客とのトラブル対応については、各売り場責任者と一緒に基本的ガイドラインを作成し、それに沿って各売り場責任者に顧客対応の意思決定を任せた。また、各売り場に毎月予算を与え、売り場ごとのイベントを考えてもらうようにした。このことで各売り場に活気が溢れ、従業員の結束が強くなった。さらに現場の従業員から発信されるつぶやきやアイデアは積極的に取り入れ、それは、いつでも現社長と直接メールでコミュニケーションが取れるような関係を構築することで可能となっている。従業員を大切にすることによって、従業員からB社が愛される関係を築いてきた。
 さらに、創業当時からの長い付き合いのある仕入先も含めて、今までの人間関係の視点ではなく顧客視点に立ち、現在の住入先の精査を行い、その再構築を図った。
 曽祖父の代より、100年近く地元で生かされてきたB社であるからこそ、現社長は「経営の原点は、地元への感謝から」という経営哲学を持っていた。B社は、まず地元の中高年女性に注目し、売り場づくり、品揃えを工夫した。さらに、パートを含む従業員も地元の中高年女性を積極的に採用した。
 同時に、現社長は高齢者の単身世帯への宅配サービスを始めたが、ただ単に注文の品を届けるだけではなく、高齢者の不安、不便さの悩みを解決するために、B社にできることは何でも引き受け、御用聞きのサービスもするようにした。高齢者の単身世帯への訪問は、「安否確認」という別の役割を果たすことにもなった。このようなサービスを通じて、B社はさらに地元に深く根付いていくようになった。
 こうした経営努力によって、B社は単年度ごとに少しずつ収支のバランスが改善されるようになった。現社長が経営を受け継いでから2005年までに2店舗を増やし、安定した利益を確保できるようになった。
 さらに、標準化された顧客対応ではなく、B社だからできる顧客対応を考えた。前社長の代より既に導入していた、買物100円で1ポイント(1ポイントは1円)付与する、「Bポイントカード」の機能を拡大して、顧客との絆づくりを強化した。
 現社長はもともとエコ活動に関心を持ち、使用済みペットボトル(廃ペット)やプラスチック容器などを自主回収して、業者への売却益を地元自治体に寄付していた。この売却益の収支報告は、B社のホームページ上に公開されている。さらに、地元自治体に協力して、B社の各店舗の入口近くに資源ゴミの集積所を無償で設置し、地元の顧客もこれを利用できるようにした。
 もともとY市の郊外は畑の多い地域であった。これまで生ゴミは畑や庭に埋めたり、焼却されることが多かったが、高齢化による農業世帯の減少と都市化の進展により、家庭で処理できない生ゴミが急に増えてきた。一方、行政コストは削減され、Y市やI県下の多くの市町村では専用のゴミ袋を有償で市民に購入してもらう方式で、ゴミの回収の有料化が開始された。
 現社長は、生ゴミのリサイクルに着目した。生ゴミを顧客から無料で引き取って堆肥化し、契約農家に肥料として提供し、有機野菜を生産してもらうという、生産から消費を循環するシステムを考案した。手始めに旗艦店で生ゴミを処理・堆肥化する機械を購入し、それを店頭の資源ゴミの集積所の隣に設置した。他の店舗では従業員が生ゴミを受け取り、回収して旗艦店まで運ぶこととした。堆肥は契約農家に無償で提供され、農家が栽培する有機野菜を店頭で販売した。
 顧客の生ゴミの持ち込みに対して、現社長は新たに「グリーンポイント」という制度を考案し、そのポイントを地元自治体に還元することにした。生ゴミを回収するごとに、2ポイント(1ポイントは1円)「グリーンポイント」が発生し、この「グリーンポイント」はB社の店舗のある地元自治体への寄付となり、緑化事業と公園整備に使われる。
 旗艦店での「グリーンポイント」の集計は、顧客が生ゴミを持ち込むときに自分の「Bポイントカード」を生ゴミ処理機横の「ポイント集計機」に差し込み、処理機の秤に生ゴミを置くとポイントが表示され、生ゴミ投入口が開くようになっている。処理機の置いていない店舗では、「ポイント集計機」だけ設置され、従業員に渡す時に「ポイント集計機」にカードを差し込むことになる。ちなみに、生ゴミの処理能力の問題もあり、ゴミの持ち込みは「Bポイントカード」1枚につき、1日1回に制限している。
 現社長は、さらにB社でレジ袋の有料化を行い、顧客から集めたその代金(原価の2円)も「グリーンポイント」として蓄積し、これも自治体への寄付としている。この「グリーンポイント」の寄付報告は、廃ペットと同様に、 B社のホームページ上に公開されている。
 また、マイバッグを持って、レジ袋を辞退する顧客に対しては、「Bポイントカード」に買物のポイント以外に2ポイントを還元している。レジ袋の辞退率は年々増加し、70%を超えるまでになった。

第1問(配点10点)
B社の現社長は、経営再建策の1つとして、仕入先の精査を行ったが、具体的にはどのようなことを実施したと考えるか。80字以内で答えよ。

第2問(配点30点)
大手スーパーなどへの差別化として、B社の現社長は 2つのターゲット・セグメントを設定した。そこでB社が採用した戦略は各々のターゲットにどのような便益を与えようとしたのか。それぞれのセグメントごとに100字以内で答えよ。

第3問(配点10点)
B社の現社長は、従業員の能力を引き出すためにインターナル・マーケティングを展開した。実際にどのようなインターナル・マーケティングを行ったのか。50字以内で2つ答えよ。

第4問(配点20点)
B社の現社長は「Bポイントカード」の機能を拡大した。それは顧客にどのような便益を与えようとしたのか、50字以内で2つ答えよ。

第5問(配点30点)
B社の現社長がエコ活動を続けようとしているのは、B社の経営上、どのような効果を狙っているのか。2つの視点から具体的にそれぞれ100字以内で説明せよ。



3.中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅲ(生産・技術)
【C社の概要】
C社は資本金9,000万円、従業員125名、年間売上高約24億円で、完成車メーカーを頂点とする自動車部品業界では2次部品メーカーである。C社の組織には、総務および経理機能を担当する総務部、金属プレス加工を行う金属プレス部、樹脂成形加工の樹脂成形部、設備メンテナンスおよび樹脂成形用・金属プレス用金型製作の生産技術部、そして製品品質の全社的管理を担当する品質保証部がある。製品開発や営業を専任する部門はなく、新規営業開拓は社長自ら担当し、受注後の開発・設計、日常の受注などの業務は、金属プレス部および樹脂成形部がそれぞれ担当している。
 現社長の父親が創業し、家電製品の金属プレス加工部品の生産からC社は出発した。現社長が生産部門の役員となってから、加工技術の向上を目指したプレス加工技能者の育成、加工品質向上のためのプレス金型の内製化、そして設備の改良・改善によるコストダウンを図るなど、社内改革を実施してきた。さらに、ISO9001の要求事項に従った品質マネジメントシステムを構築して品質保証の標準化を、そしてISO14001の要求事項に従った環境マネジメントシステムを構築して環境管理の標準化をそれぞれ達成している。このようなC社の活動は取引先の家電メーカーからも高い信頼を得て、樹脂金型の製作技術を含む樹脂成形加工技術の供与を受け、家電部品事業は拡大した。
 ところが、家電製品の生産が国内から海外に移転し、それに伴って部品も現地調達化され、C社の受注が激減した時期がある。現社長は、家電業界の海外生産移転を早くから予測し、将来の事業の方向性を探っていた。ちょうどその時期に、それまで取引していた家電メーカーの幹部から、自動車部品メーカーX社の紹介を受けた。その際、X社からは、金属プレス加工および樹脂成形加工の両部門を有していること、それらの金型が内製化されていること、そして生産設備の改良・改善技術を有していることなどが評価された。これをきっかけとして、さらに社内技術力の向上を図り、自動車業界での新規受注を計画し、時間をかけて自動車部品メーカーにC社を転換させた。現在も家電部品の受注はあるが、ごくわずかになっている。
 家電部品に代わり、現在の主な生産品目は自動車の駆動制御系部品および電子制御系電子部品に使われる金属プレス加工品と樹脂成形加工品であり、1次部品メーカー2社 (X社およびY社)から受注、生産、納品している。 X社とY社は異なった国内完成車メーカーの系列にある。X社からは駆動制御系部品を構成する金属プレス加工品と、電子制御系電子部品の樹脂成形加工品の受注を、そしてY社からは電子制御系電子部品の樹脂成形加工品と金属プレス加工品の受注を得ている。C社の売り上げの構成は、X社約40%、Y社約30%、その他約30%(金型受注販売15%、家電・その他15%)となっている。
 C社の近年の業績は、国内自動車生産台数の停滞、海外工場での部品現地調達化などの国内完成車メーカーの動向に影響されて、受注量の減少傾向が続いている。また、ハイブリッド車、電気自動車の普及によって、金属プレス部品である駆動制御系部品の需要が減少する恐れもある。

【取引先からの協力要請による事業計画】
 現在、取引先である1次部品メーカー2社からそれぞれ新たな生産協力などを迫られている。
 1つはY社から生産設備および工程の移管計画である。この移管計画は、Y社と協力して生産リードタイムを短縮すること、そしてコストダウンを図ることの2つを目的にした計画である。これまでC社で樹脂成形加工および金属プレス加王を行い別々に納品し、Y社で組み立てをしていた電子部品の生産工程を見直し、Y社に代わってC社内で組立工程までも行えるようにするものである。この組立工程は、これまで「金属プレス部品の前処理」⇒「樹脂成形部品への装着」⇒「接着」⇒「検査」の4工程で、それぞれ専用設備にオペレーターが付いて行われ、加工工数が多く、しかも高度な技術を要する組立工程である。この移管計画についての協議では、Y社から以下の内容を提示されている。
①早期に品質を安定させて量産化ができるように、Y社から生産技術者を派遣し、組立工程の技術指導を行う。
②組立後の部品納入単価は、従来のY社での製造原価の15%削減を見込む。
③ 生産移管の目的を達成するために、両社間で生産管理に関する情報を共有する。
 この移管計画で最大の問題は、Y社から提示されている厳しい契約単価である。以前からこの部品加工時の材料歩留まりが悪いことも指摘されており、現状の生産方法を続けるだけではC社が十分な利益を確保するのは難しい状況にある。Y社とC社では、この移管計画を機に、製品設計変更なども含むVE提案を完成車メーカーに対して行うことも検討している。
 もう1つは、X社からの中国進出の要請である。X社はこれまで海外生産を行ってこなかったが、中国国内での生産拡大を狙う完成車メーカーから中国進出の要請があった。そこで生産される部品にC社の加工品が使われ、加えて中国国内では得にくい金型技術が高く評価され、X社とともに中国進出をしようというものである。すでにC社も中国沿海地域に工場用地を確保し、X社の駆動制御系製品の組立工場に隣接して、C社が金属プレス加工工場と金型工場を建設し金属プレス部品をX社の組立工場に供給する計画である。資金面では金融機関の協力が得られることになり一定のめどが付いているが、さらに具体的計画立案のためにX社と協議を進めている。

第1問(配点20点)
自動車業界におけるC社の強みを(a)欄に、弱みを(b)欄に、2つずつ、それぞれ20字以内で述べよ。

第2問(配点40点)
Y社から迫られている生産設備および工程の移管計画は、現在具体的な協議が進められている。
(設問1)
この計画で最も大きな問題は、Y社から提示されている厳しい契約単価である。この計画でコストダウンを行い、利益を確保するために必要な具体的方法を120字以内で述べよ。
(設問2)
この計画の実施によりC社の生産現場に混乱が予想される。予想される混乱の内容を(a)欄に60字以内で、またその対策を(b)欄に100字以内で、それぞれ述べよ。

第3問(配点20点)
Y社からの生産設備および工程の移管計画には、①生産リードタイムの短縮、②コストダウンの 2つの目的がある。これらの目的を達成するためにY社と共有化すべき生産管理に関する情報は何か。目的①、②について具体的情報データ項目をそれぞれ20字以内であげよ。

第4問(配点20点)
X社からの要請による中国進出計画が進展している。この計画に関してC社の技術を生かした独自の経営の方向性と対応策について、中小企業診断士としてどのようなアドバイスをするか、140字以内で述べよ。



4.中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅳ(財務・会計)
 D社は地方都市に本社をおく、資本金2.5億円、総資産約37億円、売上高約48億円、従業員79人の電子部品のメーカーである。D社はインダクタ(コイル)をはじめとした電子部品を製造している。工場は本社の近くの工業団地に位置し、本社との密接な連携と、顧客の要求に対する迅速な対応はD社の強みのひとつでもある。D社は積極的に技術開発と設備投資を行うことによって、製品の小型化・高性能化と安定した品質を実現し、顧客である大手メーカーからの信頼を得てきた。そのため、受注は安定的で収益も高く、獲得した利益を内部留保として、これを設備投資に振り向けて成長してきた。
 情報機器を生産している大手メーカーZ社は、D社の主要な顧客であり、Z社向けの部品Qは、D社の売り上げの多くを占めている。D社では部品Qの長期的な受注増を予想しており、現在の生産能力には余裕がある。一方で、価格競争力の観点から平成20年度までに、遊休資産の売却等全社的に大規模なリストラクチャリングを断行した。
 しかしながら、Z社の最終製品の価格下落にともなって、Z社から部品Qの納入価格の大幅な引き下げを要求されている。D社の取締役会では、この要求にいかに対応すべきかが議論されているが、売り上げの多くをZ社に依存しているだ悶に問題は深刻である。しかし、すでに述べたように大規模なリストラクチャリングを行ったので、さらなる固定費の削減は望めない状況にある。また、生産技術部からは、現状の設備では大幅な変動費の削減は困難であるとの報告があった。
 平成21年度のD社の財務諸表及び同業他社(業界中位)の財務諸表は次のとおりである。
 以下の問題に答えよ。なお、計算の結果は小数点第3位を四捨五入せよ。

貸借対照表
(単位:百万円)
,D社,同業他社, ,D社,同業他社
資産の部, , ,負債の部, ,
流動資産,1969,1341,流動負債,1547,1005
現金等,701,461,支払手形・買掛金,711,541
受取手形・売掛金,615,429,短期借入金,615,371
有価証券,71,28,その他流動負債,221,93
棚卸資産,451,351,固定負債,832,913
その他流動資産,131,72,長期借入金,729,836
固定資産,1687,1517,その他固定負債,103,77
土地,359,383,負債合計,2379,1918
建物・機械装置,922,557,純資産の部, ,
その他有形固定資産,7,54,資本金,250,200
投資有価証券,399,523,利益準備金,62,50
, , ,別途積立金,121,17
, , ,繰越利益剰余金,844,673
, , ,純資産合計,1277,940
資産合計,3656,2858,負債・純資産合計,3656,2858

(単位:百万円)
,D社,同業他社
減価償却累計額,468,451

損益計算書
(単位:百万円)
,D社,同業他社
売上高,4799, 3675
売上原価,4116,3160
売上総利益,683,515
販売費・一般管理費,443,394
営業利益,240,121
営業外収益,62,44
(うち、受取利息),(5),(3)
営業外費用,88,103
(うち、支払利息),(69),(61)
経常利益,214,62
特別利益,22,18
特別損失,150,45
税引前当期純利益,86,35
法人税等,34,14
当期純利益,52,21

(単位:百万円)
,D社,同業他社
従業員数,79,68

第1問(配点40点)
D社の平成21年度の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比べたこの企業の財務上の長所または短所のうち、重要と思われるものを3つ取り上げよ。その各々について、長所または短所の根拠を最も的確化示す経営指標を1つだけあげて、その名称を (a)欄に示し、経営指標値を計算して(b)欄に示した上で、その長所または短所について、 D社のこれまでの経営状況に照らして(c)欄に60字以内で説明せよ。

第2問(配点25点)
営業部からの報告によれば、Z社は部品Qの納入価格の20%引き下げを要求している。さらにZ社からは、納入価格を現在の価格より30%引き下げることができれば、今後は仕入れ先をD社に一本化し、発注量を2倍にする案が提示されている。部品Qの現在の売上高は2,823百万円、変動費は 1,129百万円、固定費は 1,640百万円である。
なお、現状の生産能力には十分な余裕があり、生産技術部からは、部品Qの納入量を2倍にしても、その原価構造は現状と変化がないと報告されている。
(設問1)
部品Qの損益分岐点図表は次ページに示されたとおりである。
①納入価格を20%引き下げた場合、②納入価格を30%引き下げた場合のそれぞれについて、解答用紙の損益分岐点図表に総費用線を描け。また、①および②の場合の損益分岐点売上高を所定の解答欄に求めよ(単位:百万円)。
なお、総費用線を描く際には、2つのケースを区別するため、①の場合を破線(…)、②の場合を実線(−)で表すものとする。
定規がない場合、フリーハンドでもよいが、始点、交点、終点等のうち重要なものは明確にすること。
送信者 Y-Phrases

(設問2)
D社はZ社から提示された案のうち、どちらを受け入れるべきか、その理由とともに60字以内で解答せよ。

第3問(配点20点)
仮に部品Qの納入価格の30%引き下げを受け入れた場合について、生産技術部より製品原価の引き下げを主眼とする設備投資に関する報告が得られた。これによれば、設備投資(5億円)を行って、新たな生産方法を取り入れることにより、変動費を初年度は現状に比べ3%、第2年度以降、第5年度までは現状に比べ7%削減することが可能になる。なお、この設備投資によって不要になる生産設備はない。設備投資資金の原資としては内部留保を予定しており、資本コストは6%で、割引計算のみに使用する。設備の耐用年数は5年で5年後の残存価額をゼロ、5年後の処分価値をゼロとして定額法によって減価償却を行う。なお、金利r = O. 06とした場合の年金現価係数Σ[1/(1+r)^t]は3.4651であり、法人税等の実効税率を40%と仮定する。また、すべてのキャッシユフローは期末に発生するものと仮定し、設備投資に伴う運転資本の増減はないと仮定する。
(設問1)新たな生産方法を採用し、部品Qの受注量が2倍になった場合、この設備投資の NPV(正味現在価値)はいくらになるかを(a)欄に解答せよ(単位:百万円)。また、第2年度以降の損益分岐点売上高はいくらになるかを(b)欄に解答せよ(単位:百万円)。
(設問 2) D社は、現状の生産方法で生産を続けるべきか、それとも設備投資を行い新たな生産方法を採用すべきか、理由を含めて60字以内で解答せよ。

第4問(配点15点)
D社では、かねてから、将来的にも部品Qの受注が増加すると予想していた。そこで数年前より部品Qの増産に向けて新工場の建設プロジェクトを立ち上げ、社内で検討してきた。D社の製品は品質の面で他社より優位な立場にある。そこで新工場では、さらなる価格競争にも対応できる生産設備を導入することにしている。Z社からの受注増を受け入れるのであれば、このプロジェクトが実施される公算が大きい。
平成25年度末の工場建設関始に向けて、余剰資金の一部を国債で運用することを計画している。新工場建設に伴う投資規模は約8億円と推定されている。先頃すでに 5年後満期の利付国債を3.6億円購入した。手元資金のうち2億円についても同様に利付国債での運用を検討している。
(設問1)
金利が上昇した場合に保有債券の市場価値にどのような影響が出るかを20字以内で説明せよ。
(設問2)
設問1の影響を軽減するための方策を30字以内で提案せよ。

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