2010年6月14日月曜日

事例問題にしがみつく方法(平成21年度 財務 第3問)

 第3問は、第1問で示した経営指標のうち、有形固定資産(固定費)について改善する問題だ。

第3問(配点20点)
 D社では、売上高と利益の関係を把握するため、経常利益ベースでの損益分岐点分析によるシミューションを開始した。平成20年度の売上原価に占める固定費は1,598百万円である。推計によると、平成21年度に景気が減速した場合、20%程度の売上高減少が見込まれることがわかった。
 また、本社(土地及び建物)を売却しない場合の平成21年度の固定費および営業外損益は平成20年度と同額とする。
 なお、金利を8%とし、販売費及び一般管理費、営業外損益はすべて固定費とする。

(設問1)
 D社の平成20年度の損益分岐点売上高を求め、(a)欄に記入せよ。
 また、本社を売却しない場合について、平成21年度の売上高が平成20年度より20%減少したときに予想される経常利益を求め、(b)欄に記入せよ。
 なお、計算結果は百万円単位で解答し、百万円未満を四捨五入すること。

(設問2)
 本社を売却した場合平成21年度の損益分岐点売上高を求め、(a)欄に記入せよ(計算結果は百万円単位で解答し、百万円未満を四捨五入すること)。
 また、この結果、営業レバレッジがどのように変化しその変化がD社の業績にどのような影響を与えるかを、財務・会計の観点から100字以内で(b)欄に説明せよ。

まず題意から考えよう!
題意
 (設問1) 本社を売却しない場合
  (a)平成20年度の損益分岐点売上高を求めよ
  (b)平成21年度の予想される経常利益を求めよ

 (設問2) 本社を売却した場合
  (a)平成21年度の損益分岐点売上高を求めよ
  (b)営業レバレッジがどのように変化し、その変化がどのような影響を与えるか説明せよ

 解答の骨子 (設問2)(b)について
  例1:営業レバレッジは、~のように変化する。
     その変化は、D社の業績に~のような影響を与える。
  例2:営業レバレッジは、~のように変化する。
     D社の業績に与える影響は、~である。
  ※具体的な理由を述べるときは、因果関係に注意して書くようにする。
   →「~により、~である」「~のため、~である」という表現を使う。

次に制約条件を考える!
リード文の制約条件
 ①平成20年度の売上原価に占める固定費は1,598百万円
 ②平成21年度に景気が減速した場合、20%程度の売上高減少が見込まれる
 ③本社を売却しない場合
   平成21年度の固定費および営業外損益は平成20年度と同額
 ④金利8%
 ⑤販売費及び一般管理費、営業外損益はすべて固定費

制約条件
 (設問1) 本社を売却しない場合
  (a)(b)計算結果は百万円単位で解答、百万円未満を四捨五入
  (b)平成21年度の売上高が平成20年度より20%減少

 (設問2) 本社を売却した場合
  (a)(b)計算結果は百万円単位で解答、百万円未満を四捨五入
  (b)営業レバレッジ、D社の業績、財務・会計の観点から説明する
  →営業レバレッジ:大きくなる、小さくなる等の変化をはじめに書く
  →D社の業績:本社売却と売上高20%減少による影響を書く

解答へのアプローチ!

(設問1)本社を売却しない場合
(a)平成20年度
 売上高:5,611
 売上原価:4,204(固定費:1,598、変動費:4,204-1,598=2,606)
 販管費:931(固定費:931)
 営業外収益:3
 営業外費用:208(固定費:205)
 変動費:2,606、固定費:2,734、限界利益:5,611-2,606=3,005
 限界利益率:3,005/5,611

 損益分岐点売上高=固定費/限界利益率
  =2,734/(3,005/5,611)=2,734×5,611÷3,005=5,105

(b)平成21年度
 売上高:5,611×(1-0.2)=4,488.8
 変動費:2,606×(1-0.2)=2,084.8
 固定費:2,734
 経常利益:4,488.8-2,084.8-2,734=-330

 →設問1はサービス問題。絶対にゲットすべし!

(設問2)
(a)平成21年度
 売上高:4,488.8
 変動費:2,084.8
 固定費:2,395※
 限界利益:4,488.8-2,084.8=2,404
 限界利益率:2,404/4,488.8→変化なし

 損益分岐点売上高=固定費/限界利益率
  =2,395/(2,404/4,488.8)=2,395×4,488.8÷2,404=4,472

 ※固定費 2,395百万円
   本社の売却益:18億円(1,800百万円)
   金利分 借入金1,800×金利8%=144百万円
   ∴営業外費用=208-144=64百万円

   オフィスの賃貸料=年4,500万円(45百万円)増加
   本社の年間委託費=6,000万円(60百万円)増加
   販売費・一般管理費=3億円(300百万円)削減
   ∴販売費・一般管理費=931+45+60-300=736百万円

  固定費=売上原価に占める固定費1,598+販売費・一般管理費736
      +営業外費用64-営業外収益3=2,395百万円


 経常利益:4,488.8-2,084.8-2,395=9(黒字)

 →固定費計算で間違える可能性大!設問2の解答は具体的な数値は書かないことにしよう!
 →ただし借入金利と販管費の減少により固定費は減少することは分かる

(b)
前提知識:過去問まとめ資料より(平成15年 第2問 設問2)
 企業収益の不確実性、変動制をもたらす要因
  →①企業の費用構造の差(ビジネスリスク)
  →②負債による資金調達から生じる固定的な利子支払い(財務リスク)
 営業レバレッジ
  →変動費、固定費の費用構造の差によって、売上変化が利益変化に影響を与えること

  →変動比率の低下
   (材料費、外注費、荷造運賃費、仕入原価 等)
  →固定費総額の抑制
   (人件費、減価償却費、経費、金融費用 等)

設問1の損益分岐点売上高の計算結果から考察できることは?
 →本社を売却した場合、借入金利や販管費などの固定費が減少する
 →固定費が減少すると、損益分岐点売上高は低下する
 →損益分岐点売上高が低下すると、売上げが低下しても利益を確保しやすくなる
営業レバレッジの変化は?
 →固定費の減少により営業レバレッジは低下する
その変化が与える影響は?
 →営業レバレッジが低下すると売上変化に対する利益変化の割合が小さくなる
 →景気の減速で売上高が減少しても利益に与える影響が小さくなり、D社の業績低下を抑制できる



参考 意思決定会計講義ノートより
 意思決定会計講義ノートのp.13には、経営レバレッジ係数の求め方が紹介されている。

 売上高(営業量)が1単位変動した時に営業利益がどれだけ変動するかを示す指標が経営レバレッジである。売上高の変動以上に営業利益が変動するのは製造・販売コストに固定費が存在するからである。固定費の割合が大きければ大きいほど経営レバレッジは大きくなる。経営レバレッジ係数は次の式で求められる。

  経営レバレッジ係数=営業利益の変化率/売上高の変化率
   =(営業利益の変動/営業利益)/(売上高の変動/売上高)
   =限界利益/営業利益

 確かめてみるとわかるが、売上高が損益分岐点売上高に近づけば近づくほど経営レバレッジ係数は大きくなる。



問題の階層を考える!
 経営分析
  →経営指標:有形固定資産回転率(固定費)における問題点の解決
 財務事例の対応方法



以上から導き出した解答:




(設問1)
(a)5,105(百万円)
(b)-330(百万円)

(設問2)
(a)4,472 百万円
(b)固定費の減少により営業レバレッジは低下する。営業レバレッジが低下すると売上変化に対する利益変化が小さくなるため、景気の減速で売上高が減少しても利益に与える影響が小さくなり、D社の業績低下を抑制できる。100字



 解説の途中で出てきた「過去問まとめ」資料は、平成13年度~平成18年度までの過去問をまとめた資料だ。受験生時代は、今ここで紹介している題意や制約条件、切り口などを各設問ごとにエクセルでまとめて繰返し解いていた。

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