財務事例の中で最も重要なのが経営分析だ。配点比率も高く、その後続く設問と密接に関係する部分だからだ。毎年、第1問で経営分析を聞いてくるので、どのような解答を書くのかはあらかじめ準備できる。この点は、財務事例の対応方法で説明しているので確認をして欲しい。
第1問(配点40点)
D社の平成20年度の財務諸表を用いて経営分析を行い、この企業の財務上の長所・短所のうち重要と思われるものを3つ取り上げ、その各々について、長所・短所の根拠を最も的確に示す経営指標を1つだけあげて、その名称を(a)欄に示し、経営指標値を計算(小数第3位を四捨五入すること)して(b)欄に示した上で、その長所・短所が生じた原因をD社のこれまでの経営状況に照らして(c)欄に60字以内で説明せよ。
まず題意から考えよう!
題意:
(a)長所・短所の根拠を最も的確に示す経営指標を示せ
(b)(a)で示した経営指標値を計算せよ
(c)長所・短所が生じた原因を説明せよ
解答の骨子 (c)について
例:長所・短所が生じた原因は、~ためである。
※60字と字数が少ないが、ここでも因果関係に注意して書くようにする。
→「~により、~である」「~のため、~である」という表現を使う。
次に制約条件を考える!
制約条件:
(a)長所・短所の根拠を最も的確に示す
(b)小数第3位を四捨五入する
(c)D社のこれまでの経営状況に照らして
→財務諸表上の数字(定量的な情報)が悪化したことを単に述べるだけではダメ!
→与件で与えられたD社の経営状況(定性的な情報)も踏まえて分析を行う
与件を活用する!
とりあえず、機械的に代表的な経営指標は計算してしまおう!
財務諸表より(D社/同業他社)
○売上高対総利益率 …25.08%/20.92%
○売上高対営業利益率…8.48%/3.99%
○売上高対経常利益率…4.83%/1.81%
○棚卸資産回転率 …7.11回/6.03回
×有形固定資産回転率…2.62回/4.53回
○売上債権回転率 …5.84回/5.20回
×流動比率 …137.20%/144.22%
○当座比率 …90.04%/88.39%
×自己資本比率 …25.56%/29.45%
以下の経営指標は、与件に費用面の記述があった場合に考慮する。
○売上高対売上原価率…74.92%/79.08%
○販売費・管理費比率…16.59%/16.93%
※売上高対人件費比率は不明
→利益率は同業他社と比べて良好である:長所
→同業他社より悪い指標は有形固定資産回転率、流動比率、自己資本比率である
→この中から利益率、回転率、安全性を選択すると、
利益率:与件からどの利益率を選ぶか判断する
回転率:最も資産効率の悪い「有形固定資産回転率」を選択する
安全性:「流動比率」と「自己資本比率」は与件からどちらを選ぶか判断する
①
「D社は高い縫製加工技術による自社製品に定評を有しており、その技術力から国内大手のY社より有名ブランド品のOEM生産を受託している」
「自社ブランドを立ち上げ、最近では米国等への海外輸出も手がけている」
→高い縫製加工技術
→大手Y社より有名ブランド品のOEM生産を受託
→自社ブランドの海外輸出
⇒高い技術、ブランドによる高付加価値製品:収益性が高い
②
「事業の拡大に伴って手狭になったため隣地の中古不動産を買い増ししてきた」
→駅前という地価が高い場所で中古不動産を買い増し
⇒有形固定資産の増加:資産効率が悪い
③
「本社を売却した場合、18億円の手取りのキャッシュフローが得られるので、これを全額負債の返済に充当する」
→18億円もの負債を抱えている
→中古不動産を買い増し時に長期借入金による資金調達
⇒借入金の増加:資本の安定性が低下
問題の階層を考える!
経営分析
→財務事例の環境分析
財務事例の対応方法
以上から導き出した解答:
①
(a)売上高総利益率
(b)25.08%
(c)長所が生じた原因は、高い縫製加工技術を有し、大手Y社のOEM生産や自社ブランドの海外輸出により、収益性が高いためである。60字
②
(a)有形固定資産回転率
(b)2.65回
(c)短所が生じた原因は、中核都市の駅前に本社を構え、隣地の不動産を買い増ししたことにより、資産効率が悪くなったためである。59字
③
(a)自己資本比率
(b)25.56%
(c)短所が生じた原因は、隣地の不動産を買い増しする際、長期借入金を中心に資金調達したことで、資本の安定性が低下したためである。61字
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